エゴイスト   〜リョーマside〜








「お早う、越前君」

「…はよッス」


昨日の事が何となく心の引っ掛かっていて、気になって…

早く学校に行きたくて、家を飛び出た。

部室が既に開いてたから、てっきり副部長が居るのかと思ってた。

なのに、予想に反して…居たのは不二先輩一人だった。


「先輩、鍵持ってたんすか?」

「うん、合鍵をね。こっそり作っちゃったんだ」


チリン、と音を鳴らす鍵。

本当、この先輩には油断も隙もないと思う。


「でも、大石先輩が来たらバレちゃうじゃないッスか」

「大石は黙認してくれてるよvv要は手塚に気付かれなきゃ良い訳だしね?」


副部長も可哀想に…。

そう思わずには居られなくなった。


「君こそ、どうしたの?こんなに早く…」

「…目が覚めちゃったんス」


本当の事は、言えない。

先輩の言葉、行動が気になって眠れなかったなんて、言えない。

だって…まだこの先輩は謎だから。

本心を見せるには早過ぎる。


「そう?じゃ、昨日の続きしようか?」

「?何すか、続きって」

「交流だよ、交流」

「あぁ、それっすか」


不二先輩は俺の隣に立つと、いつもの笑みを浮かべた。


「越前君さ、好きな人とか興味ないって言ったよね?」

「…言いましたけど?」

「なら、都合が良いかな」


何の事ッスか?そう言おうとした声が、飲み込まれた。

先輩の、唇によって…


「っん…!何、すんですか?!」

「………さぁ?何だろうね」

「俺、ゲイじゃないんで…困るんですけど」


俺の言葉に、先輩はフッと笑った。


「誰も、君を愛してるなんて言ってないよ?」


そう言って、もう一度口付けてくる先輩。

訳分かんない…。好きじゃないけど、こういう事するんだ?

女になら兎も角、男相手だなんて…。

理解出来ない、この先輩のことは…。


「先輩…ゲイ、なの?」

「ふふ、どうだろうね」

「……先輩って、よく分かんない」

「その方がいいだろ?真意が見えてる人間なんて、面白くないよ」


その言葉を最後に、何度も何度もキスをした。

抵抗するっていう手もあったけど…何故かそんな気は起きなかった。

先輩の綺麗な瞳に魅入られて…動く事が出来なかった。

キスは…アメリカで結構経験あったし、上手い自信もあった。

でも…先輩のキスは、俺を遥かに越えていて…

女でいう、『腰砕け』の状態になった。


「…そろそろ、大石が来るね」


俺の身体から、そっと離れた先輩。

少し、名残惜しい…。


「…気持ち良かった?」

「…っ」

「素直だね、君は…。反応が判り易い」


と、その時…大石先輩が部室に入ってきた。


「お早う、不二。と…越前じゃないか。二人共早いな」

「お早う、大石」

「…お早うッス」

「大石。僕、先にアップ始めるね」

「あぁ、俺もすぐ行くよ」


俺の隣を通り過ぎる時、先輩は確かにこう呟いた。


『続きがしたかったら、また今度…ね?』

「………」


頭が、クラクラする。

ずっとキスをしてたから、軽い酸欠なのかもしれない。


「お、おい越前?!大丈夫か!」


大石先輩に支えられて、何とか倒れなくってすんだ。

でも、身体がふらふらするのは落ち着かない。


「越前!しっかりしろっ」


大石先輩に支えられた所為か、安心して力を抜いてしまった。

そしたら、ふと意識が途切れた。

目を閉じる瞬間、不二先輩が薄く笑っていたように見えたのは、きっと…気の所為なんかじゃない…